ぬくもり

 寒くなってくると、たしぎがスモーカーの部屋を訪ねて来る事が多くなる。
体が冷えて眠れないのだそうだ。確かにベッドの中で触れる指先や足、特に足先などは驚く程冷えていた。そんな彼女を暖めたくて、恥ずかしがるたしぎが可愛くて足先から愛撫する事もよくある事だった。たしぎの吐息が乱れるまで可愛がり、熱を移しその熱が落ち着いて行くのと一緒に深い眠りに落ちていく。それが寒い時期の二人の夜だった。

 それが、先日ヒナから冬島用のブランケットがたしぎに送られてきてから状況が変わってしまった。それまで毎日のように来ていたたしぎがスモーカーの部屋を訪れなくなってしまったのだ。
 最初は静かに寝るのもたまにはいいと思ったが、三日が四日になり四日が五日になると毎日のように枕がわりにしていたせいか物足りなくなってくる。

 スモーカーがたしぎの部屋を訪れると部屋はすでに暗く、部屋の住人はドアが開いた事に気づきもせずにベッドの中だ。身体の滑らかな曲線が分かるほど、薄いブランケットのようだが寒そうな様子を見せずにすやすやと眠っている。

「たしぎ」呼び掛けると少し身動きをする。もう一度名前を呼び掛けると寝ぼけ眼で「スモーカーさん、どうしたんですか?」と間抜けに聞いてくる。どうしたもこうしたもあるか、大体ベッドのそばに男がいればもう少し驚くものだろう。色々と言いたい事も頭の中では駆け巡ったがスモーカーは一言「…夜這い」とたしぎのブランケットをめくり彼女の横に滑り込み、ようやく温もりを腕の中にした。
「スモーカーさん?」
「何だ?」
「私、夜這いをされるほどスモーカーさんを放っておきましたか?」
 たしぎの質問にスモーカーは答えずに彼女を抱きしめる。絡めた彼女の足の先は確かに暖かい。これなら一人で眠れるのだろう。
「スモーカーさん?」
 鈍感女はまた聞き返してくるが、そんな事は察してほしい。それともこれは彼女なりのスモーカーへの仕返しなのだろうか。
「この毛布、俺の物な」
「は?何を言っているんですか?これはヒナさんが私にくれたんですよ。それとも同じものもう一枚頼んでみましょうか?」
「…これでいい」
「じゃあ、私のが無くなっちゃうじゃないですか。せっかくいい物を見つけたと思ったのに」
「俺も寒いからだ。お前も一緒に来ればいい」
 スモーカーは少し強くたしぎの身体を抱きしめ、温もりを肌で感じながら彼女の髪に顔を埋める。
「……スモーカーさん、本当は寂しかったんでしょ」
「んな事あるか」
「そうだと思うんだけどな」
 それ以上の質問を避けるように、スモーカーは唇を重ねて言葉を遮るのだった。

寒い夜のお話



2010.01.01
冬コミ ペーパーより
2010/01/01(Fri) 22:11