【Promotion】 今回も違うみたい… スモーカーが取った電伝虫の内容をそれとなく聞いていたたしぎは、かかってきた内容が彼女が期待しているものとは違っていた事に小さく溜息をつく。 あれから、いくつの海賊を拿捕してきたっけ… たしぎは頭の中でここしばらくで潰してきた海賊を思い出し、指を折り始める。 そろそろ、いい加減に、連絡があってもいいはずなのに。 「こら!この前から何をそわそわしてやがる」 今度はたしぎの頭の上に書類の束がドンと乗せられる。受け取るとそれはスモーカーのサインの済んだ書類だった。 「また、何かやらかしたのか?集中していないのならコーヒーでも淹れて来い。お前の分も」 空になったマグカップをスモーカーが振っている。 「あ、はい!すぐに」 たしぎは椅子をガタリと鳴らしながらそのカップを受け取り、なるべくスモーカーと視線を合さないようにそそくさと席を外す。これ以上この場に居たらたしぎが先ほどまで考えていた事を白状しなくてはいけなくなりそうだと感じたのだ。だが、今度はそのコーヒーを淹れて持って行った時には話さなくてはいけない事になるのだろうとも覚悟をしていた。 給湯室でコーヒーを淹れる時間にまたたしぎはゆっくりと考えに耽る。 あれから… アラバスタを離れてからしばらくしたある日スモーカーが「このままじゃいずれ麦わら達に手出しできなくなるな」と漏らした事があった。 「何故ですか?」 目の前に麦わらが居たら、今度こそは捕まえる。 振りそぼる雨の中で力尽きて倒れていた麦わらの一味。何の苦労もせずに捕まえられる状況だった。 だが、たしぎ自身には遠い存在であり手を出せなかった。 自分がなしえなかった事をしてくれたからという恩義を感じた訳ではない。 プライドに傷がつくから?と聞かれれば、もうその時点では十分すぎるほど自分のプライドには様々な傷がついていた。 たしぎの感傷だと指摘されても仕方がない事だったのだが、それがたしぎに残された、たった一つの正義に従った結果だったのだ。 だから次に出会った時こそは。 自分は海兵として海賊を捕らえよう。その図式でいいのではないか?目の前に居るのに手出しできなくなるなんて事があるのだろうか? 「奴らが無事に逃げおおせて、行方が消えたからな。これだけでは終わらんだろう」 スモーカーがたしぎの問いに答えてはくれたが、それはピンと納得できるものではなかった。 だが、その後大将青キジが麦わらの一味に接触を図ったという話が流れて、ようやくたしぎにもスモーカーの言っていた意味が見えてきた。 麦わら一味は大将クラスを動かす海賊になりうるのかもしれない。ここはイーストブルーではなくグランドライン、海軍本部の直轄なのだ。 階級によって動かせるものの全てが変わってくる。組織内では当たり前の事だが、人も補給物資も質も。扱う海賊のランクですら違いが出る事があるのだ。 このままで終わらせないために 麦わらをどこまでも追っていけるようにするには それからスモーカーは積極的に海賊を捕まえ始めた。 今までは航海の流れの中で行きあった、もしくは作戦の中に組み込まれた海賊を捕まえていたのだった。が、今は事前に細かい情報を多岐に渡り集め積極的に特定して拿捕していく。 この数か月の間で片手以上の戦績。 小物ではない3千万以上の海賊ばかりである。 「お待たせしました」たしぎは思考と共に時間をかけて淹れたコーヒーの入ったマグカップをスモーカーの前に置く。自分の分のカップを持って自分の席に行こうとすると、予想していた通りスモーカーに待つように無言の視線を受ける。 「さて、たしぎ。最近落ち着かない理由を聞こうじゃないか」 「落ち着かない理由なんて…」 「でわ、電伝虫にそば耳を立てている理由だな」 「それは…」 スモーカーはコーヒーを飲みながらのんびり質問をしているようだが、実際は話すまでは逃がさない雰囲気を漂わせている。同じ部屋で仕事をしていて逃げるも何もないのだが。 たしぎは自分の分のコーヒーで口を湿らせる。 「待っているんです…」 「何をだ?」 「…スモーカーさんの昇進をです! だって、もういい加減何らかの動きがあってもいい程には功績をあげているじゃないですか!」 「そんな事か…ああ、今まで昇進を蹴り飛ばしていた分のツケがきているな」 「ですが。そろそろ正当に評価されてもおかしくはないです!」 「お前がそんなに気にする事でもあるまい」 「しかし!…」 スモーカーの言う通りたしぎが気を揉んでも仕方のない事である。 たしぎの昇進はスモーカーの権限で順当に進んでいる。規定の数の功績を残し、かつ昇進に必要な資格を得ていれば上司であるスモーカーが本部に申請して大抵の場合はそのまま許可されて晴れて昇進である。 「功績をあげているおかげで、しっかりとボーナスが増えているだろう?まあ、将官になるのには少しばかり面倒があるからな…」 大佐までは数に制限はあまりないのだそうだ、だが将官クラスになると誰でもというわけにはいかない。世界政府の厳しい審査にかかるようになってくる。その世界政府に先日『くそくらえ』発言をしているスモーカーである。 「でも…」 昇進を待つスモーカーというのも想像がつかないが、普段と変わらないスモーカーの様子にたしぎの方がつい報せを待ち焦がれてしまう。『でも』から先に続ける言葉を見つける事ができず、たしぎはまた自分のコーヒーに口をつける。 そんなたしぎを見ていたスモーカーはニヤリと笑いながら、机の上に足を投げだしプカリと葉巻を煙を吐き出す。 「たしぎ、あのな… 必ず俺は昇進するから、心配するな。 今のまま海賊を潰し続けていけばそのうちに俺を無視もできなくなる。俺を呼ぶ、必ずだ。」 スモーカーの自信に満ちた態度に、その姿にたしぎは今まで持て余していたどうしようもない焦りの気持ちがスッと抜けていくのを感じた。自分が焦ってもしょうがない、『必ず』というスモーカーの言葉を信じて、今自分ができる事がスモーカーを支える事に自分を高める事になるのではないだろうか? 「スモーカーさん、次は5千万ベリーの海賊です」 「ほう…今度はどれだけ手応えがあるのか楽しみだな」 「はい!」 スモーカーの昇進はそれからすぐにだった。 おわり |
コミック45巻の方にも出たので 准将&少尉への昇進おめでとう!と。 まだ自分自身が言い慣れないんですけどね スモ誕がわりに。 2007.03.14 |