【Sweet relation】



「スモーカーさん、どうぞ」
たしぎがリボンのかかった箱をスモーカーの前に差し出す。
頬をほんのり染めて、やや早口気味に何やら言い訳じみた事を言っている。
そういえば、周囲ががふわふわと浮ついた雰囲気が漂っていたなあと思いながらスモーカーは「おう」とその箱を受け取る。
中に入っているものは予想通りチョコレートだった。やや、不揃いな大きさの茶色の四角い粒が並んでいた。
たしぎの手作りかと思いながら、スモーカーは遠慮なく一粒頂く。

抑えた甘さと苦味が広がり、味は悪くない。

チョコを口にしたスモーカーの様子をたしぎが今度は心配そうに覗き込んでいる。コーヒーの入ったマグカップを置きながら、先ほどとは打って変わり黙ってスモーカーの様子を伺っている。

「どうした?」
「別に…」
「何か怪しいものでも仕込んでいるのか?」
「!そんなもの!!…それで…味はどうですか?」
「味見はしていないのか?」
「しましたけど…」

スモーカーは食べてみろとばかりに箱をたしぎの方に押しやるが、たしぎは手を出そうとはしない。それならばと一粒ひょいとつまみ上げる。

「食ってみろ」
「はい」とそのチョコを受け取ろうとたしぎは手の平を出すが、スモーカーはそこには置かず彼女の口元に持っていく。
「えっ…」
「早くしろ、溶けるだろ」
たしぎはスモーカーの取った行動にまた顔を赤らめながらもスモーカーの手から直接チョコを口にする。

「どうだ?悪くない味だと思うが」
「ハイ…」
もごもごと口の中のチョコを溶かすたしぎ。
恥ずかしいのか、目を伏せがちにスモーカーとは視線を合わそうとはしない。

「もう一つ頂くとするか」
「どうぞ」スモーカーの言葉にたしぎはそっと箱を押しやるが、スモーカーは「今度はお前からな」と箱からたしぎへと視線を動かす。
「私から…です…か?」
「ああ、お前からだ。今、俺がたしぎに食べさせてやっただろう?」

スモーカーの意図する事に思い当たり、たしぎは少し考えてから箱から一粒のチョコを摘む。そしておずおずとスモーカーの口元に持っていく。

たしぎが差し出すチョコを今度はスモーカーが口にする。
ただ、そのままでは済ませなかった。たしぎの手首をスモーカーは掴み細い指先ごと口にしたのだった。
彼女の指先についた茶色の粉を丹念に舐め取るスモーカー。
最初は抵抗するように手を引こうとしていたたしぎだったが、手首を掴む強い力に抗えるわけもなく、次第に抵抗も弱まりスモーカーにされるがままとなる。

「スモーカーさん…もう…」
「『もう』って、何だ?
それに普通こういう時は口移しっていうのがお約束だろ?たしぎ」

意地の悪い笑みを唇の端に浮かべながら抵抗の弱くなったたしぎを抱き寄せるスモーカー。たしぎは頬を染めながらも抱き寄せられたスモーカーの胸元から離れようと弱弱しい抵抗を続ける。
だが抵抗もスモーカーが名前を呼びながら恥じらうその顔を覗き込むと静かになる。そんなたしぎの様子に堪らず愛おしさがこみ上げスモーカーはそっと柔らかな唇に口づける。
二度、三度と啄むうちに薄らとたしぎの閉じられた唇が綻んでくる。そこから次第に熱を帯びた深い口付けに変わっていくのだった。

2. 2

「…そういう夢を見たんだが、たしぎ」
「それは紛うことなく『夢』ですね」

目の前の女はスモーカーの夢の出来事を刀ではなく言葉で冷たく一刀両断する。

「大体、私は例え溶かして固めるだけでもチョコレート菓子なんて作りません。買った方がずっと美味しいものが頂けるじゃないですか」
「料理の下手な女が自分のために手作りしてくれたという事が大事なんだろう」
「だからそういう部分も『夢』だと言うんです。それに、スモーカーさんそんなに甘いもの召し上がる事ないじゃないですか」

たしぎはデスクに広げられていた様々な書き込みがされた海図をくるくると丸め、一緒に置かれていた報告書もテキパキと片づけていく。
そんなたしぎの様子にスモーカーは「夢がねェなぁ」と溜息ともつかないような葉巻の煙を深く吐き出す。
片付けを続けながらたしぎが何気なく「夢なら私も見ましたよ」と話し始める。

「夢の中なのに目が覚めたらスモーカーさんの隣だったんですよね。またそのまま眠ってしまったんだ…と思いながら、でもとてもその場所が温かくて気持ち良くてまどろんでいたんです。そうしたら、スモーカーさんも目が覚めて優しくキスしてくれるんです」と夢の中の幸せな状況を思い出したのかふわりと笑うたしぎ。
だが、スモーカーは「ほお…それだけか?」と聞き返す。
「え?それだけって?」
「お前の夢の中での俺がそのキスだけで終わったのか?」

ニヤリと笑いスモーカーがたしぎをじっと見つめながら、たしぎの答えを促す。スモーカーの視線の先で今度はたしぎは赤くなりながら「それで終わりです」と早口で答える。

「…まだ、先があるんだな。
夢は己の願望が素直に出ているそうだ。お前の方が俺よりも直接的じゃねェか」
「んなッ…それは一体どういう事ですか!」
「だがお前のその願望は俺がすぐに叶えてやるさ」
「その前に仕事です!」

スモーカーの言葉を遮るたしぎ。

「まずは仕事です。私達の目的のためには成果をあげなくてはいけませんから」
「ああ、もちろんこの仕事の後でだな。気を引き締めて行くとするか。たしぎ」
「最後の部分には同意します。それでは」


甘い関係はデザート

メインは仕事



おわり


お久しぶりのテキストで甘甘
シーズンネタは好きです
2007.02.13